神戸チキンジョージ

高校を出て、田舎からの脱出という人生最大の目標を成し遂げたものの、ハイロウズのチケットはなかなか取れなかった。
やっとライブハウスに行けたのは20歳の誕生日。チケットはネットの掲示板で見つけた親切な人から定価で譲ってもらった。リーバイスのロングスカートを履いて行ったものだから、モッシュピットで裾を踏まれまくった。よろけては何度も立ち上がった。足元がサンダルでなかっただけまだマシだったか。
一曲目は「岡本君」。ほかに何を演奏したのかは覚えていない。知らない人の腕と自分の腕がぎゅうぎゅう押し合って痛かったのに、そのうち擦れる感触がお互いの汗で滑らかになっていった。隣の人も後ろの人も前の人も赤の他人なんだけど、もう何とも感じなかった。自分と他者との間の境界がそこにはなかった。
チキンジョージが20周年を迎えたあの年、私も二十歳だった。